停滞する稲妻 岡村靖幸は、パソコンの前でじっと売上データを見つめていた。数字は、期待していたほどの変化を見せていない。数ヶ月前にリリースしたNINJABOLTの新製品、「魔法のアースケーブル」。技術には確信があった。エンジンのパフォーマンス向上や燃費改善といった明確な効果があり、テスト結果も申し分ない。それなのに、売上は伸び悩んでいた。 「何が足りないんだ……」 岡村は静かに呟いた。画面の数字が、まるで彼を嘲笑うかのように揺れて見える。製品は完璧だと信じていた。いや、今でも信じている。しかし、その「完璧さ」をどう伝えれば良いのか――そこが最大の課題だと感じ始めていた。 彼は疲れたように椅子に深く座り、手元にある「魔法のアースケーブル」を見つめた。それは、彼自身が長年の経験と技術を集結させて作り上げたパーツだった。車の電気系統を安定させ、エンジンのレスポンスを向上させる。科学的にも理論的にも効果が証明されている。なのに、なぜ顧客の心を掴むことができないのか。 その夜、岡村は電話を手に取り、昔からの友人であり、現在は成功した起業家でもある玲司に連絡を取った。玲司は、岡村が長年信頼を寄せる数少ない人物の一人だ。 「もしもし?岡村か。どうした?」 玲司の声は相変わらず落ち着いていた。電話の向こうから、軽くグラスを揺らす音が聞こえる。彼は、いつも余裕に満ちている。 「ちょっと悩んでてさ。最近、売上が伸びなくて……新しいパーツを出したんだけど、期待したほどの反応がないんだよ」 岡村は、思わず正直に話した。技術には自信がある。それでも売上が伸び悩んでいる現状に、焦りが募っていた。 「その新しいパーツ、あれだろ。例のアースケーブルのやつか」 「そう、魔法のアースケーブルってやつだ。性能は間違いないんだけど、それが伝わってないんだろうな……」 玲司は少しの間、黙っていた。そして、静かに言った。 「お前さ、技術には自信があるんだろう?なら、その技術をどうやって人に伝えるかをもっと考えた方がいいんじゃないか。製品が完璧でも、それが人にどう響くかは別の話だ。人がそれをどう感じるか、そこをちゃんと見てるか?」 その一言が、岡村の心に鋭く刺さった。技術に対する自信があれば、それだけで製品は売れると思っていた。しかし、それだけでは不十分だということに気づき始めた。 「人がそれをどう感じるか……」...
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